その事務作業、本当に内部でやるべき?委託化で改善できる自治体業務一覧

自治体の現場では、限られた人員と予算の中で、多様化・高度化する住民のニーズに応えなければなりません。制度改正やデジタル化の要請、突発的な大量業務の発生など、自治体を取り巻く環境は日々変化し、ますます加速しています。
こうした状況の中で、今改めて問われているのが「その事務作業は職員が内製で担い続けるべきか?」という視点です。限られたリソースを最大限に活かすためには、業務の棚卸しと見直しが不可欠です。
本記事では、自治体業務における委託化という選択肢の意義と、委託によって改善が期待できる具体的な業務、導入のポイントまでを分かりやすく解説します。
増加し続ける行政の事務作業、「見直し」が急務となる背景

近年、自治体が担う業務はますます多様化・複雑化しています。さらに、住民ニーズの高度化や制度改正への対応、災害・感染症対策など、行政の役割は拡大する一方で、現場では深刻な課題が浮き彫りになっています。
人手不足と業務量の増加がもたらす事務負担の深刻化
自治体の事務作業が逼迫する背景には、以下のような構造的な課題があります。
- 中長期的な職員数の抑制
人口減少に伴う採用難や定年延長への対応により、人的資源は潤沢とは言えず、限られた人員で業務を回す必要があります。 - 業務の複雑化
行政手続きのデジタル化により、システム運用やデータ管理、個人情報保護・セキュリティ対応など、従来以上の専門性が求められる場面が増えています。 - 季節・制度特有の繁閑差
税務処理、各種給付、選挙、監査対応など、特定時期に業務量が急増するケースの場合、臨時雇用だけでは教育コストや業務品質の確保といった課題が残りがちです。
「その業務、本当に職員がやるべき?」問い直す必要性
こうした状況の中で、今こそ業務の棚卸しと見直しが求められています。
行政の本来の役割は、政策立案や地域課題の解決など、住民に向き合うコア業務です。標準化可能な事務作業や付随業務まで職員が内製で担い続けることが、果たして業務全体の最適解なのか――その発想を転換する時期に来ているのではないでしょうか。
外部の専門性・スケールを活用すれば、業務ピークの吸収、品質の均質化、セキュリティ担保を図りながら、職員は「住民に向き合う仕事」に集中することができます。
事務作業を効率化する「委託化」という戦略的選択
委託化は、単なる「人手の外注」ではありません。業務プロセスを設計し直し、標準化・自動化を前提に最適な分業体制を組むための戦略的な経営手段です。
特に行政領域では、法定期限の遵守や厳格なセキュリティ要件、監査対応など業務遂行における制約が多く存在します。
だからこそ、BPO事業者と共通言語でKPI(重要業績評価指標)やSLA(サービス水準合意)を設定し、データに基づく運用へ移行することで、属人性から脱却し、再現性のある業務運営が可能になります。
外部委託は、庁内で活用を進めるデジタルツール(RPA、AI-OCRなど)と連携し、事務処理の負荷を軽減するだけでなく、行政手続きのオンライン化やマイナンバーカードの普及・活用、キャッシュレス化、電子契約といったデジタル施策の運用面でも、安定した処理体制を支える役割を果たします。
BPOは「行政事務作業見直し」の鍵

BPO(Business Process Outsourcing)は、特定の業務を外部の専門業者に任せることで、成果物や業務の進捗を数値で管理する方法です。人手を補完するだけでなく、業務の流れそのものを見直し、ムダを省いて効率的な仕組みに作り替えることがポイントです。
※BPOとは、専門の外部事業者に業務を委託し、業務効率化・コスト最適化・サービス品質向上などを実現する手法です。詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
BPOは「業務の見直し」とセットで導入することで、以下のような効果が期待できます。
- 標準化・自動化・可視化の推進
業務の属人性を排除し、誰が担当しても同じ品質で処理できる体制を構築。 - QCD(品質・コスト・納期)の最適化
業務の成果を定量的に管理し、安定した運用を実現。 - ハイブリッドな運用体制の確立
RPA、AI-OCR、チャットボットなどのデジタルツールと組み合わせることで、さらなる業務効率化の実現。
「外部への委託」がもたらす専門性とリソースの確保
委託先は、事務処理に特化したノウハウや体制を持っており、短期間で大量処理を行う能力に長けています。自治体が自前で整備するには高コスト・高負荷となるリソースも、外部委託によって効率的に活用できます。
- 専門ツール・設備の即時活用
高精度スキャナ、AI-OCR、セキュアなデータセンター、大量印刷・封入封緘ライン等を自前での投資なしで活用。 - 専門人材の常時確保
業務の繁閑に応じたスキルミックスを活用し(入力、審査、発送、コール等)、教育済のオペレーションチームを短期間で立ち上げ。 - セキュリティ・ガバナンスの担保
「LGWAN(総合行政ネットワーク)」や「閉域ネットワーク」、「VPN専用回線」など、自治体の仕様に応じたネットワーク環境の構築により安全に個人情報を取り扱い。
ISMSやPマーク等の第三者認証、入退室管理・ログ管理・情報持出制御などの標準実装により、情報管理に関する負担を軽減。
※自治体業務のDXについてはこちらの記事をご覧ください
委託化で改善できる自治体業務一覧
委託化の可否は、「裁量判断の有無」「業務の標準化のしやすさ」「個人情報の取り扱いレベル」「繁閑差の大きさ」など、複数の観点から見極めることが重要です。
まずは、件数、エラー率、リードタイムなどの定量データをもとに業務を可視化し、委託の棚卸しを実施、対象となる業務を仕分けすることで、効率的な委託化の検討が可能になります。以下では、自治体で頻出する事務領域について、委託の対象範囲、期待される効果を整理します。
申請・受付関連業務
- 対象業務例
給付金、助成金、許認可申請の受付窓口・バックオフィス処理
- 委託内容
- 申請書の受付(紙・電子)、仕分け、スキャン
- 記載内容の審査(必須項目、不備検知、重複確認)
- 添付書類(本人確認書類や通帳のコピーなど)の確認
- データ入力、突合、システム登録
- 不備連絡・照会対応(レター作成、書類発送、アウトバウンド)
- 進捗管理、データ集計、レポーティング
- 改善効果
- 繁忙期の処理能力向上、遅延の抑止
- チェックルールの標準化による正確な審査
データ入力・処理・集計業務
- 対象業務例
手書き帳票のデータ化、各種統計資料作成
- 委託内容
- スキャニング、AI-OCR化、データ入力
- データクレンジング(住所正規化、名寄せ、コード付与)
- データベース構築・管理、ダッシュボード作成
- 改善効果
- 入力リードタイム短縮と精度安定化
- 部課横断のデータ利活用(可視化・分析)を促進
- システム移行時のデータ整備に有効
通知書発送業務
- 対象業務例
広報誌、通知書、DMなどの印刷・封入・発送
- 委託内容
- 宛先データ受領、差し込み印刷
- 音声コード印字、加工
- 封入封緘、重量計測、区分差出
※金券・クーポン券の封入 - 配送管理、未着処理、再送
- 改善効果
- 大量発送の短期処理と誤封入防止
- 郵便料金の最適化(割引の活用)
- 宛所不明の低減と住民到達率の向上
問い合わせ対応
- 対象業務例
住民からの問い合わせ対応(コールセンター開設)
- 委託内容
- 代表電話の一次受け、FAQ整備・運用
- 施策限定窓口(各種申請、給付、施設予約等)
- 想定される問い合わせのスクリプト化、ナレッジ運用
- チャットボット、ボイスボット、メール、SNS等のオムニチャネル対応
- 改善効果
- 問い合わせの一元管理と応答品質の平準化
- 混雑時間帯の応答率向上、現場の窓口負担軽減
- 複雑案件のみ庁内にエスカレーションすることで、職員は専門対応に集中
総務・庶務業務の一部
- 対象業務例
文書管理、備品管理、施設予約受付など
- 委託内容
- メール室業務(文書の受取、配布)
- 保管、廃棄(文書分類・保存年限管理)
- 備品の購買、在庫管理、配布、資産台帳の整備
- 施設予約の受付、料金徴収等の事務補助
- 改善効果
- 事務ルールの標準化と監査対応の強化
- 在庫最適化による無駄な購買の抑制
- 来庁者対応の導線改善と待ち時間短縮
- 関連ソリューション
事務作業の委託化が行政にもたらすメリット
委託化の本質的な価値は、職員が「行政にしかできない仕事」に時間を再配分できる点にあります。政策立案、地域との協働、将来を見据えた制度設計などは、外部では代替しづらい領域です。
一方で、受付・入力・発送・一次対応などの定型処理は、外部の専門設備や運用ノウハウを活用するほど効率化・品質安定のメリットが大きくなります。業務量の変動にも柔軟に対応できるため、結果として住民サービス全体の底上げにつながります。委託化がもたらすメリットは大きく以下の3点です。
職員の作業負担を軽減し、コア業務への集中を促進
受付、データ入力、印刷・発送、問い合わせ対応などを委託することで、職員は対人支援、現地調査、政策形成、地域連携といった本質的業務に専念することができます。
業務品質の安定化と専門性向上による住民サービスの改善
委託先による作業手順の統一や多重チェック、ツール活用により、処理のばらつきや属人化を防止します。特に、類似案件の実績がある委託先では、ノウハウを元に対応のスピードや正確性が向上し、問い合わせ窓口の多言語対応やアクセシビリティ対応など、外部のベストプラクティスを取り入れやすくなることも大きな利点です。
コストの最適化と柔軟な体制構築による予算効率化
人件費や設備投資といった固定費を変動費化することで、業務量や時期に応じたスケールイン・アウトが可能になります。郵便料金の最適化、入力精度向上による再処理削減など、現場の実費削減も期待できます。
KPI可視化により、投下コストと成果が明確になることも利点の1つです。
失敗しない!行政が事務作業を委託する際の成功ポイントと注意点
委託先の効果を最大限に引き出すには、導入前の準備が何より重要です。目的の明確化からパートナー選定、運用設計、効果検証まで、各ステップを丁寧に進めることで、委託化は「一時的な外注」ではなく、持続可能な業務改善施策となります。
委託範囲の明確化と業務プロセスの詳細設計
委託化の第一歩として、業務の棚卸しを行い、目的やゴールを明確に言語化することが重要です。業務を以下の観点から整理し、単なる負荷分散にとどまらず、データを用いて現状を正確に把握します。その上で、委託に適した工程を選定し、KPIを活用して運用を管理することで、着実に成果を積み重ねることが可能です。
- 可視化(As-Isの棚卸し)
:業務フロー、件数、作業時間、判断基準、システム・帳票の関連を見える化。 - 仕分け(コア/ノンコア、裁量/定型)
:裁量判断は内部、定型処理は外部へ。 - 標準化(ルール・帳票・データ)
:判断基準や記載方法、コード体系を統一し、OCR前提の帳票設計へ。 - 自動化(ツール活用)
:AI-OCR、RPA等のデジタルツールを活用し、外部事業者と連携して最小投資で導入。 - セキュリティ・品質保証
:匿名化、データ分離、アクセス権設計、監査ログ、品質検査(サンプリング、ダブルチェック)を定義。 - 契約・KPI設計
:処理リードタイム、誤り率、到達率、住民満足度などを合意し、月次レビューで改善。
信頼できる委託先の選び方(実績・セキュリティ)
委託先の選定は、業務の安定運用と信頼性を左右する重要なステップです。以下の観点で評価・確認を行いましょう。
※委託先選定の詳細はこちらの記事をご覧ください
段階的な導入と継続的な効果検証の重要性
委託化は一度にすべての業務を外部化するのではなく、段階的に進めることでリスクを抑え、効果を確実に積み上げることができます。ポイントは以下の3点です。
- まずは小さく始める例:まずは不備照会と発送のみ委託化→効果確認後に入力・突合へ拡張。
- KPIを使って効果を見える化する
処理時間、エラー率、応答率、住民満足度などをダッシュボードで可視化し、月次レビューで改善点を共有・実行。 - 契約は柔軟に見直せる設計に
業務量の変動に応じて従量課金制を採用したり、稼働上限の調整が出来るようにする等、改善提案を反映できる合意プロセスを設けることで、長期的な運用にも対応。
まとめ:自治体業務の未来を切り拓く「事務作業の見直し」と「委託化」
事務作業は、行政運営を支える重要な業務です。しかし、すべてを職員が内製で担うことが最適とは限りません。業務の可視化・仕分け・標準化・自動化を推進し、外部パートナーの専門的な知識や設備を活用することで、職員は本来のコア業務に集中することができ、住民サービスの質とスピードを同時に向上させることが可能です。
そのためには、まず「どの業務を内製化し、どの業務を外部に任せるのか」を具体的に洗い出し、リスクと効果を定量的に評価することが重要です。行政事務作業の見直しの第一歩を進めてみてはいかがでしょうか。

「類似業務の知見がほしい」
「施策実施にあたっての予算感が知りたい」
「デジタルツールを活用して運用を効率的に行いたい」
などの課題がございましたら是非お気軽にご相談ください。
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